高脂肪食に応答する脳血管ペリサイトによる新たな肥満の進展機構の発見
ポイント
- 肥満の早期に脳血管ペリサイト※1が炎症促進因子を放出することで視床下部に慢性炎症を促進し、体重増加を誘導する新機構を明らかにしました。
- ペリサイト機能に重要な増殖因子 PDGF※2の受容体を欠損するマウスではこの機構が働かないことから、肥満?栄養過剰の監視機構としての脳血管ペリサイトの重要性が示唆されます。
- ペリサイトから分泌される炎症誘導因子 CXCL5※3は、肥満抑制戦略の新たな治療標的として期待されます。
概要
国立大学法人富山大学学術研究部 薬学?和漢系の和田努 講師、富山大学大学院医学薬学教育部薬科学専攻の桶川晃 大学院生、薬学?和漢系の笹岡利安 教授らは、視床下部での神経細胞の機能低下が始まるメカニズムとして、血管を取り巻くように存在する細胞の“ペリサイト(周皮細胞)”の重要性を明らかにしました。マウスに脂肪の含有量が高い食餌(高脂肪食)を給餌することで、マウスは肥満を呈します。この時、視床下部の血管周囲に存在するペリサイトは早期から反応し、CXCL5と呼ばれる炎症伝達因子を放出します。この因子は脳の免疫細胞であるミクログリア※4の炎症活性を高め、視床下部に慢性炎症を誘導します。その結果、神経細胞の機能が障害され、エネルギーの消費に重要な熱産生機能の低下を導き、体重が増加します。しかし、このペリサイトの機能に重要な増殖因子 PDGF の受容体を欠損するマウスでは、高脂肪食を給餌してもCXCL5 は増加せず、視床下部の炎症は抑制され、神経細胞の活性とエネルギー消費量が維持され、体重増加も抑制されました。本研究で明らかとなった視床下部ペリサイトが媒介する視床下部の慢性炎症進展機構は、新たな肥満の治療標的と考えられます。
本研究成果は、医学専門誌「Molecular Medicine」に 2024年2月5日(月)に掲載されました。
用語解説
(※1)ペリサイト
血管周囲を取り巻くように局在し、血管の安定化や血流量など、血管の機能を調節し安定性を維持する細胞。周皮細胞とも呼ばれる。近年、その免疫を調整する機能が注目されている。
(※2)PDGF
血管内皮細胞から分泌され、ペリサイトの細胞表面に存在する PDGF 受容体β(PDGFRβ)に作用することでペリサイトの機能維持に重要な作用を示す血小板由来増殖因子。
(※3)CXCL5
ケモカインと呼ばれる、免疫細胞や組織に必要な前駆細胞などへと遊走させる機能を持つサイトカインの1種。特に白血球である好中球を炎症部位に誘導する炎症性ケモカインとして知られてきた。
(※4)ミクログリア
脳に常在するマクロファージ系統の免疫細胞。ダメージを受けた細胞や異物の除去を担うことで脳内環境を調整しているが、活性化に伴い炎症性物質を放出する。その過剰な活性化は神経変性疾患などの脳の疾患の病態に深くかかわる。
研究内容の詳細
高脂肪食に応答する脳血管ペリサイトによる新たな肥満の進展機構の発見[PDF, 480KB]
論文情報
論文名
Platelet-derived growth factor signaling in pericytes promotes hypothalamic inflammation and obesity.
著者
Akira Okekawa, Tsutomu Wada, Yasuhiro Onogi, Yuki Takeda, Yuichiro Miyazawa, Masakiyo Sasahara, Hiroshi Tsuneki, Toshiyasu Sasaoka
掲載誌
Molecular Medicine
DOI
https://doi.org/10.1186/s10020-024-00793-z
お問い合わせ
富山大学学術研究部 薬学?和漢系
教授 笹岡 利安
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